転校することが多かった子ども時代、友人を作りたいけれど恥ずかしがり屋で口下手だったぼくは、なかなかクラスには馴染めず。寂しい気持ちを紛らわせるために、休み時間にはいつもひとりで教室にいて、自由帳に絵を描いていました。そんな様子に興味を持ってくれたクラスメイトたちが、次第にぼくの机のまわりに集まってくるようになり、みんなと仲良くなるきっかけになりました。「芸は身を助ける」という言葉があるように、ぼくにとって絵を描く事は、人との繋がりをつくるための自己表現、コミュニケーションツールであることを感じた原体験です。
そこからは、例えば大切な人に送る手紙に絵を添える、友人の祝い事に絵を描いて贈る、誰かを励ますために絵を描くなど、自分のためだけではなく他者のために描くことなどに喜びを感じてきました。それは今現在も変わらず、人と自分、社会と自分をつなげるものとして絵が存在していると感じています。自分のために描くよりも誰かや何かのために描くことが好きなぼくですから、誰かのために絵が描けるイラストレーターという職業は、まさに天職だと思っています。
とはいえ、最初からイラストレーターだったわけではありません。絵を仕事にすることに興味を持っていました。しかし、絵で食べていく自信がなく、手に職をつけようと思いデザインの専門学校に進みました。卒業後、まずは社会経験を積む必要があると考え、会社に就職しグラフィックデザイナーとして数年働きました。
イラストレーターとデザイナーは、似ているようで得意分野が違います。イラストレーターは、その名の通り、絵を描く仕事です。対してデザイナーは、イラストなどの絵を素材として活用し、もっと大きな枠組みで絵を作る仕事です。
料理に例えるなら、イラストレーターが農家で野菜を作る仕事ならば、その野菜を使って調理する料理人がデザイナーです。ぼくは、デザイナーの経験があるので、素材の魅力を引き出す、ビジュアル表現で課題を解決する、情報を正確にわかりやすく伝える、というようなデザイナーとしての視点が根付いています。そこから逆算した上でイラストを描いていることは、ぼくの強みの一つにもなっています。
では、なぜデザイナーをやめてイラストレーターになったのか? いろいろな理由がありますが、やはり原体験である、絵、そのものが人とつなげてくれる力の可能性を信じているからです。
実は、会社勤めをしている間も、仕事が終わった夜と休日はイラストを描いていました。個展を始めたのもこの頃です。ぼくは、結局イラストが好きな気持ちには抗えなかったのだと思います。それから、個人の名前で仕事がしたかった気持ちも自分が思っていたより強かったようです。
イラストレーターとして活動を始めたものの、順風満帆ではありませんでした。賞に応募するも落選し続けましたし、自分の作風と呼べるものを確立するまでに10年かかりました。
イラストレーターとして活動し、20年を超えた今、好きな絵を突き詰める道に進み、人様のお役にたてることに心から幸せを感じています。
絵の持つ力の可能性は、無限大です。絵は、言語の壁を超え、時代をも超えて、子どもから大人まで誰にでも伝えることができます。その力を使って、社会や環境を良くしていきたい、人や物、世界を繋げていきたいというのがぼくの目指す事です。